被爆六十周年記念事業 コンセンサス会議
歴史的証言に基づくヒロシマ平和コンセンサスの試み

主催: ワールド・ピース・ヒロシマ
共催: 財団法人広島平和文化センター
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「ヒロシマの平和行政について」の要旨

齊藤忠臣(
広島平和文化センター理事長)


私からは、広島市や財団法人広島平和文化センターが、核兵器廃絶と恒久平和実現に向けて取り組む上での課題や、実施している施策の概要についてお話しします。

まず、最初に、私が理事長を務めております財団法人広島平和文化センターの成り立ちを少しご紹介します。財団法人広島平和文化センターの前身は、昭和42年(1967年)、広島市役所の中に平和問題に専門的に取り組む組織として設置された一つの部署でした。こうした部署が地方行政組織の中に設けられたのは、人類史上初の原子爆弾の被害を受けた広島市が世界の先頭に立って平和の確立に寄与したいと念願したからでした。昭和51年(1976年)、市役所の一組織であったセンターは、市民各階層の有識者の参加を得て、様々な団体と連携した自主的な活動に委ねる方がより効果的との考えから、財団法人に組織替えしました。以来、広島平和文化センターは、広島市はもとより市民団体等とも連携を図りながら、様々な平和関連施策を推進しています。

広島市や広島平和文化センターが取り組んでいる具体的な施策をご紹介する前に、施策の前提となる「ヒロシマの心」、被爆者のメッセージについてお話しします。被爆者は我々に様々なメッセージを伝えてくれていますが、その中で大切なものの一つが、「復讐の道を選ばすに、和解の道を提示した」ことです。平和記念公園の慰霊碑には、「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」という言葉が刻まれています。この慰霊碑が完成した当時、この文章の主語をめぐって大きな論争が起こりましたが、最終的に、この言葉の意味は、「我々人類は過ちを繰り返さない」と多くの被爆者と広島市民が解釈することで決着がつきました。 敵がいて味方がいる、あるいは絶対に正しい味方がいて、それに賛成しない人は全部敵だということではなく、全世界を一つの単位として、全世界が協力して共通の明るい未来を創っていくという決意を示した言葉だと解釈されています。そこからは、報復をしようとか、敵を討とうという考え方は出てこないのです。この点を是非理解していただきたいと思います。

これから、具体的な施策についてご説明しますが、広島市や広島平和文化センターが取り組んでいるテーマとしては、大きく「被爆体験の継承」と「核兵器廃絶に向けた取組みの推進」の二つがあります。

まず、第一のテーマ「被爆体験の継承」についてお話しします。
被爆から今年で60年が経過しました。これまで被爆の実相を伝えてきた被爆者の方も高齢化し、人数も少なくなってきています。また、広島の被爆の実相を伝える上で大きな役割を果している平和記念資料館の入館者が年々減少し、若い世代における被爆体験の風化や平和意識の低下、希薄化も懸念されています。
「忘れられた歴史は繰り返す」という言葉がありますが、その言葉どおり、核戦争の危険性が高まっています。こうした状況の中、被爆体験の継承に向け取り組んでいる施策をいくつかご紹介します。

まず、一つ目が、世界の大学に「広島・長崎講座」を開設・普及させる取組みです。
広島・長崎の被爆体験を学問的に整理して、世界の大学で「広島・長崎講座」として普及すれば、世界中の若い世代に被爆体験を継承できると考え、現在その普及に努めています。
この広島・長崎の取組みに応えて、国内では、例えば地元の広島市立大学、広島大学のほか、早稲田大学、関西学院大学、国際基督教大学などが、海外ではドイツのベルリン工科大学が「広島・長崎講座」を開設してくれています。
二つ目は、国内外での原爆展の開催です。広島の資料館を訪ねることができない人々にも被爆の実相を知ってもらうため、広島から国内外の色々な都市に出向いていって、被爆資料や写真パネルの展示、被爆体験証言などを内容とした原爆展を開催しています。また、市が実施する原爆展以外にも、国内外の平和団体や学校あるいは個人で、原爆展や平和学習を行う際に原爆写真ポスター・パネルなどを貸し出したり、または提供したりしています。
三つ目は、修学講習の実施です。修学旅行等で訪れた児童・生徒に資料館の見学にあわせて、被爆体験者による体験講話や原爆記録映画の上映などの講習を行っています。
この他にも、被爆者が減少する中、被爆体験を後世に残すために、被爆者証言ビデオテープを制作したり、被爆者の書かれた被爆体験記を朗読する事業を行ったり、インターネットによる情報発信にも取り組んでいます。

次に、もう一つのテーマである「核兵器廃絶に向けた取組みの推進」を取り上げたいと思います。
アナン国連事務総長が「核兵器の問題は、過去の問題ではなく、今日の問題である」と発言されたとおり、現在、地球上には人類を何十回も絶滅させるだけの核兵器が存在しています。核兵器をなくしていこうという中心的な国際合意としては、核不拡散条約(NPT)がありますが、残念なことに、このNPT体制が現在崩壊の危機に瀕しています。
2001年の9.11アメリカでの同時多発テロ以降、アメリカのブッシュ政権は、テロ攻撃などからアメリカを守るためには、核兵器の使用も辞さないという姿勢を示し、小型核兵器の研究を開始しようとするなど、NPT体制とは逆の態度をとっています。また、北朝鮮は2003年1月にNPT脱退を宣言、核兵器保有を表明しています。こうした核兵器廃絶を取り巻く厳しい状況に対し、ヒロシマが取り組んでいる「平和市長会議」の活動を紹介します。
広島市では、世界の都市が連帯して、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現を目指す目的で、1982年に平和市長会議という団体を設立しています。現在、1,000を超える都市が加盟しており、国連にも登録された世界的なNGOの一つとなっています。この平和市長会議を中心にして、2020年までに核兵器の脅威から完全に解き放たれた平和な世界を実現する「核兵器廃絶のための緊急行動」という取組みを展開しています。この緊急行動の取組みに対しては、欧州議会や全米市長会議などが賛同決議を行い、平和市長会議の加盟都市もこの1年で約400都市増加するなど、賛同の輪が広がっています。
平和市長会議は、今年5月に行われたNPT再検討会議において、2020年の核兵器廃絶に向けた決議がなされるよう取り組んできましたが、残念ながら、会議は具体的な成果を出せないまま閉幕しました。このため、今年8月に広島市で開催される第6回の平和市長会議総会では、2020年までに核兵器廃絶を実現するための今後の道筋を協議することにしています。
以上が、広島市や広島平和文化センターが核兵器廃絶と恒久平和実現に向けて取り組む上での課題や、実施している施策の概要です。


平成172005)年73


ヒロシマ平和コンセンサス『鍵となる質問』

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