攻めの地震防災
要 約 地理空間情報高度活用社会 (G空間社会) の到来によって、 地震工学は “地盤情報工学” の発展とともに、大きく躍進を遂げる 「Society 5.0 」 の入口に位置している。 その変容は、攻めの地震防災として社会実装されていくことになる21世紀の文明開化である。 表層地盤の非線形応答の定量的評価指標であるDNL (Degree of Non-Linearity) は、 地震波形のリアルタイム活用を促進させ、避難誘導システム構築の基幹となる技術である。 太田川 「広島」 文明の未来を探り、その早期実現のために投資銀行の設立を提言する。 キーワード: G空間社会、Society 5.0、Web-GIS、地盤情報工学、表層地盤の非線形応答、DNL、常時微動、地震波形のリアルタイム活用、避難誘導システム Positive Measure to Prevent Seismic Damage MAESHIMA
Osamu ABSTRACT Earthquake Engineering is located in the entrance
which accomplishes remarkable progress greatly with development of
Geotechnical Information Engineering by arrival of Geo-Informatics Society. The
change will be Globalization on the 21st century by which social mounting
will be carried out as positive
measure to prevent seismic damage. DNL (Degree of
Non-Linearity) which is a quantitative evaluation index of the Non-Linear
Response of Subsurface Layers is technology which promotes real-time
practical use of seismic waves, and serves as a base of an escape guiding
system configuration. The future of the Hiroshima Civilization built by Otagawa River was explored and establishment of an
Investment Bank is proposed for the early realization. Keywords:
Geo-Informatics Society, Web-GIS, Geotechnical Information Engineering,
Non-Linearity Response of Subsurface Layers, DNL, Microtremor,
Real-time practical use of seismic waves, Escape guiding system 1. 地理空間情報高度活用社会
(G空間社会) の到来 地理空間情報活用推進基本法が、平成19(2007)年5月30日、法律第63号として、 地理空間情報の活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的として制定された。 この法律において 「地理空間情報」 という用語が日本で初めて定義されたことになる。 地理空間情報活用推進基本法の略称は、NSDI法。 NSDIとは、National Spatial Data Infrastructureで、国土空間基盤データを意味する。 この法律において、GIS:Geographic Information System 「地理情報システム」 とは、 地理空間情報の地理的な把握又は分析を可能とするため、ディジタル化された 「地理空間情報」 を、 電子地図上で一体的に処理して視覚的な表現や高度な分析を行う情報システムのことである。 ところで、GISの有用性が社会に認知されるようになった契機は、阪神・淡路大震災であった。 1月17日、阪神・淡路大震災が発生した平成7(1995)年は、Windows95がブームとなった年であり、 IT革命 (IT: Information
Technology) の始まりの年でもあった。 Windows95の出現によるパソコンの普及は、震災復興計画策定の社会的要請に応えていくために、 比較的安価となったGISが広くパソコンに導入される契機ともなったのである。 この時機、小生は、地震時の地盤の液状化の発生メカニズムを調査研究脚注1して学士(工学)の学位を修め参1)、 大学院では、全世界の研究者に先駆けて即座に、地震防災にGISを導入し、液状化危険度の分布状況を探り、 その対策を合理的に進める手法で、修士(工学)を修得した参2)。 因みに、未収録の <水頭比較による液状化評価指標> についても考察していた参3)参8)。 あれから13年が経過して発生した、平成23(2011)年3月11日、東日本大震災では、 IT革命は高度な情報通信技術 (ICT:
Information & Communication Technology) へと飛躍的に進展を遂げ、 パソコン上における所有概念のGISではなく、Web上で共用できるWeb-GISが、 非常時に必要な情報を一元的に共有できる効果を存分に発揮するという価値を創造したことは、 防災上、特筆すべき事象である。 内閣府中央防災会議は、平成26(2014)年1月17日、防災計画に災害弱者避難支援を明記し、 本年4月から市区町村に名簿作成を義務化したにもかかわらず、 地方公共団体において、その対策は一向に進んでいないように見受けられる。 そこで、この災害時に有効活用できるWeb-GISのさらなる活用策として、 地震時の避難誘導のための地理空間情報 「地盤破壊の規模 DNL」
の提供によって、 災害弱者避難支援も含めた避難誘導に資することが可能である、との提言である。 DNL (Degree of Non-Linearity) とは、表層地盤の非線形応答の定量的評価指標である参4)参5)。 地震発生時の避難誘導に役立てるべく、 地理空間情報「地盤破壊の規模 DNL」システム表示の整備の着手の必要性の背景にある根拠として、 誰もがいつでもどこでも必要な地理空間情報を使ったり、 高度な分析に基づく的確な情報を入手し行動できる 「地理空間情報高度活用社会 (G空間社会) の実現」 が、 地理空間情報活用推進基本計画の平成24(2012) 〜 28(2016)年度に謳われていることが挙げられる。 これに加え、南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法に基づき、 平成26(2014)年3月28日に 「南海トラフ地震防災対策推進地域」 に、 広島市も含まれる多くの地方公共団体が 内閣府中央防災会議の指定を受けたことによる具体的な対応策としての技術的行動指針になれば、 との想いがある。 脚注[1] 実験に使用した山口県豊浦標準砂Toyoura Standard Sandは登録名称であり、正式名称は豊浦砂である。 豊浦藩、山口県立豊浦高等学校など、古くからの地域の名称が確認できる。 山口県豊浦町のほかに、新潟県豊浦町、北海道豊浦町がある。 標準砂とは、セメント強さ試験用標準砂の意。 豊浦とは 神功天皇即位 穴門豊浦宮 忌宮神社 現在の忌宮神社 に因む
阪神・淡路大震災が発生した1995年 振動三軸試験機で液状化の要素試験実施中の小生 東京電機大学理工学部 地盤工学研究室にて 2. 地盤情報工学の発展こそが地震工学の発展 日本列島には今や様々な機関の地震観測網が整備され、地震波形が確実に記録出来る時代となった。 地震波形記録の充実や高精度化は、 情報革命 (IT: Information Technology) から 高度情報通信社会 (ICT: Information & Communication Technology) への目まぐるしい進展が、 その背景にあることは周知の事実である。 次なる段階としての地震工学的期待は、観測記録の活用にある、とは、小生の視点である。 つまり、表層地盤の非線形応答を地盤情報として地震時に可視化すること、そして避難誘導に活かすことだと展望する。 地震時の表層地盤と強震動の取扱いには、強震動地震工学的に注意しなければならない現象がある。 それは 「表層地盤の非線形応答」 。 常時微動参6)の卓越周波数は、あくまでも
「線形応答」 であり、 地震地盤工学的には、むしろ地震時の 「非線形応答」 の卓越周波数が重要になる。 地震被害の適切な評価指標は、震源情報ではなく 「表層地盤の破壊状況」 、 つまり 「表層地盤の非線形応答」 で確認するべきなのである。 「震度階級」 と 「地盤破壊の規模 DNL」
= 「表層地盤の破壊状況」 を地震の結果指標とし、 「震央」、「震源の深さ」、「地震の規模 マグニチュード」 を地震の原因指標とすれば良い。 常々そのように考えてきたところである。 地震時に、地震の結果指標として 「表層地盤の破壊状況」 を習得するようになると、 日本国民は自ずと地震という現象を正しく理解するものと想われる。 そして、地震に負けない自信を身に付け、行動意識が減災へと飛躍的に変容していくものと想われるのである。 そのためには、気象庁の地震情報を、現在の 「原因指標」 から 「結果指標」 に転換させる必要がある。 ところで、記録的巨大地震は、同時に、減災社会に資するための貴重な基礎データになる。 このような貴重なデータを観測記録できる好奇心は、 むしろ、巨大地震に怯える姿勢から巨大地震を待ち構える姿勢へと転換させる。 小生は、この姿勢を “攻めの地震防災” と呼んでいる。 平成25(2013)年2月15日金曜日、日本地震工学会主催の国内ワークショップ参5)の開催前に、 世界一の電波塔である東京スカイツリーから、近未来における <気象庁 地震情報> のあるべき姿を提言した のが最初である。 この日は、ロシアのウラル地方に隕石が落下した日として記憶される日ともなった。 様々な機関の地震観測データを一元的に、しかも地震時に瞬時に 「地盤破壊の規模 DNL」 として解析処理することは、地震波形を記録して研究する段階から、 リアルタイムの地盤の非線形応答を避難誘導に活かす段階へと発展を遂げることになるのではなかろうか。 地盤情報工学の発展こそが地震工学の発展と云っても過言ではなく、 減災社会への貢献に直結するものと考える次第である。 3. 21世紀の文明開化 以上の思索を、21世紀の文明開化としての理解にまで深めることで地盤情報工学の発展を祈念してみたい。 日本の近代化は、安政の五カ国条約を機に始まる。 安政の五カ国条約とは、幕末の安政5(1858)年に、江戸幕府が5つの国とそれぞれに結んだ条約の総称である。 アメリカ (日米修好通商条約 7月29日) オランダ (日蘭修好通商条約 8月18日) ロシア (日露修好通商条約 8月19日) イギリス (日英修好通商条約 8月26日) フランス (日仏修好通商条約 10月9日) 「太平の眠りを覚ます 上喜撰 たった四杯で 夜も眠れず」。 嘉永5(1853)年、ペリー来航による
「鎖国」 からの 「開国」 に続く 「開港」 であり、 修好通商条約による 「条約港 = 開港地」 が近代産業化の起源にもなっている。 日本近代の文明開化は、修好通商条約による 5つの
「条約港」、2つの 「開市」、「長州ファイブ」 を起源とする。 近代工学の起源も、ここにある。 長州ファイブの一人である、工学の父 山尾 庸三を原初とする 明治12(1879)年創立の
「工学会(現:公益社団法人日本工学会)」 からの分立による 大正3(1914)年土木学会創立が、新たな文明を創造する役割を阻害している、 との原因究明である。 話を戻して、 最初に条約港の一つであった下田が、閉港となった史実も踏まえての「5つの条約港」と「2つの開市」を確認しておくと、 下田(下田): 1854年3月31日 (1860年1月4日閉港) 函館(箱館): 1855年3月31日 (1859年7月1日実質的に開港) 横浜(神奈川): 1859年7月1日開港 長崎: 1859年7月1日開港 新潟: 1869年1月1日開港 神戸(兵庫): 1868年1月1日開港 東京・築地(江戸): 1862年1月1日開市 (1941年5月20日開港) 大阪・川口(大坂): 1863年1月1日開市 (1868年7月15日開港) 近代日本を象徴する、近代水道の創設は、 修好通商条約の条約港としての開港地の近代文明の都市づくりを物語るが、 明治31(1898)年8月25日午前9時30分、 全国5番目の近代水道創設の広島市は、明治27(1894)年に日清戦争が起こると大本営が置かれ、 政治・軍事の中心となったため、多くの軍人らが集まり、水道の必要性が高まってきたことによるものである。 近代水道創設の背景にある “条件” として異色のものであった。 明治20(1887)年 横浜 明治22(1889)年 函館 明治24(1891)年 長崎 明治27(1894)年 大阪 明治31(1898)年 広島(8月25日) 東京(12月1日) 明治33(1900)年 神戸 の順で近代水道は創設されていった。 同じく、近代日本を象徴する鉄道の創設は、前島密著『鉄道臆測』と長州ファイブの一人、鉄道の父 井上 勝に始まる。 平成26(2014)年6月10日、広島駅は開業120周年を迎えた。 明治5(1872)年 陰暦9月12日、 横浜居留地と築地居留地をつないだ、横浜〜新橋間の蒸気機関車による鉄道の開通から22年を経ての開業であった。 さて、宇宙論的地球時代21世紀の文明開化は、 1995年Windows 95 を機とした World Wide
Web、WWW情報通信社会の到来に、その起源を見出すことが出来る。 小生は、Social Networking Service、SNS高度情報通信社会の到来までの、およそ20年間を胎動期と視る。 日本近代の文明開化が、修好通商条約による 5つの
「条約港」 という、 特定された空間と限定された時間での 「開港」 であったのに対して、 21世紀の文明開化は 「通信ポート」 というかたちでの 「開港」 である。 すなわち、空間と時間を超えた 「宇宙的港」 を地球人類が同時に手にしたのが特長である。 国家の枠組みを超えての 「地球市民」 の交流が、大きな “うねり” となって、 21世紀の地球社会 <世界連邦> を創り出していく原動力になっていくことだろう参7)。 「白道を 沈み往く 太陽を観ていて 想うこと 地球はひとつ 彼岸の境地」参8)。 地球市民への地震情報の伝達に、Social
Networking Service、SNSの活かし方が、 今後、重要な鍵を握っていることが正しく理解できる。 科学技術と社会、Science, Technology,
and Society、STSの態様の変化を、 『建設コンサルタントのテクノロジー・アセスメントへのすすめ』参9)の契機として捉え、 積極的に SNS を活用することが求められている。 4. 地震波形のリアルタイム活用としての避難誘導システム Social Networking Service、SNSの代表例であるFacebook は、 「人名」 と 「人名」 による交流によって価値を創み出している。 これを 「地名」 を軸に交流することで、地域の発展に資するシステム <LandBook 観光カリスマ> は 小生の発案特許である。 このLandBookの応用として、地理空間情報である
「コード化された地名」 を軸に交流して、 地域メッシュコードの地盤情報の品質を高めていく調査研究事業は、 公益社団法人としての日本地震工学会の社会的責任を果たす公益財産になることだろう。 そのためには、原位置による常時微動測定の地震地盤工学的意義の理解が必要不可欠となる。 詳述すると、実務での耐震設計に用いる地盤モデルは、通常、1本の土質柱状図を基に作成される。 しかしながら、作成された地盤モデルは、厳密的に表層地盤モデルとは云えない。 なぜなら、点の深さ情報のみに負っているからである。 それを補うのが、面的調査としての常時微動測定である。 原位置の常時微動測定は、 周囲の実地盤の表面波の伝播が反映されている点で表層地盤モデルの作成に多大なる信頼性を与えており、 ボーリング調査による土質柱状図からは得られない、深部の地下情報も反映される、 表層の地盤モデルの総合的検証調査となる。 理論H/Vスペクトル (Horizontal-to-Vertical Spectral Ratio) との整合性により、 表層地盤モデル作成の信頼性が格段に高まるのである。 常時微動測定値は、「地盤破壊の規模 DNL」
の初期値として必要になる。 さて、SNSの本質は、情報品質である。 信頼性の高い地盤情報に基づく避難誘導の指標は、高品質な情報として減災社会に資する基幹技術になる。 緊急地震速報の後、国民一人ひとりが、 携帯情報端末Personal Digital
Assistant、PDAによる 「震央」、「震度階級」、「地盤破壊の規模 DNL」の閲覧を目的としたシステムの開発およびシステムの普及は、 地震工学の発展に絶大に寄与するものと目論む。 そこで、災害弱者避難支援策としての “地震時の避難誘導を予約するシステム” を <HinanYudouBook 略称:HYBook 地震時避難誘導 お知らせシステム> と発案特許として命名する。 広島市防災情報メール配信システムのWeb-GISと連携したシステムへの拡張整備が急務である。 この外、地方公共団体における地震被害想定調査では、 基盤地図情報として微動アレイ探査による深部地下構造のモデル化を 地震被害想定の精度向上のための基礎データとして早急に反映させる必要がある。 また、地域メッシュコードの地盤情報の評価に、表層地盤の非線形応答特性を、 さらには、表層地盤が地震動に及ぼす影響 Effects of Surface Geology on Seismic
Motion、ESGについても盛り込む必要がある。 5. 地震ハザードとしての津波と地震ハザードからの避難誘導システム 攻めの地震防災は、攻めの津波防災でもある。 なぜなら、津波は地盤震動に起因するハザードのうちの一つだからである。 本来、地震と津波は、地震防災上、切り離して考えるべきではなく、 地震ハザードの一つとして認識されるべきなのである。 地震ハザードを列挙すると、 液状化、急傾斜地の崩壊、落石、土石流、地滑り、津波、洪水、火災、建物被害、ライフライン施設被害、交通施設被害、帰宅困難者、経済被害等がある。 そして、地震ハザードの数だけの防災と減災があることを知ることが国民国家的に重要となる。 総じて地震被害を軽減させるための最善策は、地震発生前に予めこれらの危険地域を把握しておき、 ハザードマップに示された危険地域から避難しておくことが、攻めの地震防災である。 攻めこそが最大の護りとしてのLifestyles Of
Health And Sustainability、 LOHASを重視した持続可能な土地利用戦略を、防災まちづくりの基盤とすることが急務であり、 観光まちづくりとして活かすことも選択肢であることを忘れてはいけない。 地震発生時は、被害の全体像を逸早く把握するための情報収集に努め、 信頼性の高い被害分布状況に基づく適切な緊急避難指令が生死を分ける。 非常時に必要な情報を一元的に共有するためのWeb-GISと連携した <HYBook 地震時避難誘導 お知らせシステム> が、 3.11に続く超巨大地震の到来前に、実現可能な文明の利器として、その整備が急務とされる。 数多くの地震ハザードからの避難誘導システムとして、工学的に合理的な減災効果が期待できる。 6. 防災都市としての海城築城 太田川
「広島」 文明史 「広島」の歴史は、広島の始祖・毛利輝元の命名による太田川河口三角洲への築城を機に始まる参10)。 時は、安土桃山時代 『清須会議』 の後の、天正17(1589)年陰暦4月15日。 海上交通、河川交通、陸上交通の拠点としての州都
「広島」 築城であった。 太田川河口デルタ周辺の山々から選定された城地 「己斐浦」 が鯉城の由来とされる。 広島市は市域の変遷が示すように、西区の一部と中区と南区を
<扇の要> として発達してきた歴史がある。 この扇の要である、太田川河口デルタこそ <人工都市 広島鯉城>
であり、この海城を、 小生は、永遠の都 広島鯉城、またの名を千年都市 広島鯉城と呼んでいる。 千年都市 広島鯉城を目指しての、太田川の治水や高潮による洪水被害を軽減させる技術が、 時代時代によって海城としての基盤を強固なものにしてきた歴史が、太田川「広島」文明史なのである。 視点を変えれば、それこそがHiroshimaの叡智であり、広島観光でもあることの理解が Hiroshimaの未来戦略的に大変重要になる。 自然の川を掘として築城した 城内の生活空間の有効性を 人類の叡智として際立たせていく必要性の気付きとなるからである。 太田川河口デルタの干拓と沖合埋立事業の後、 太田川利水としての水道事業および水力発電事業、冠山水源の森の涵養事業、港湾整備事業等へとつながっており、 Hiroshima のHは、類まれなる土木環境技術の粋を集めた地球人類の叡智であり、 未来の世界遺産築城に向けての太田川「広島」文明史の理解を踏まえた防災先進都市の発信強化が重要となる。 築城以前の周辺住民の暮らしとして、 鎌倉時代の寛元4年(1246年)に、鉄が年貢として納められていたという記録が文献に確認されることから、 山麓の緩斜面の砂鉄採取による大がかりな鉄穴流しが、デルタ形成の一つの要因であったことが推察される参11)。 鉄穴流しは、土砂堆積の抑制による浸水防御のため、江戸時代の寛永5(1628)年に禁止されている。
図1 「広島」築城前の太田川河口デルタ 図2 現代の太田川
<広島五鱗> の様子 江戸時代の治水事業は、河川で囲まれる島の周囲に堤防を築き、 城側の堤防を9寸(約0.3m)から8尺(約2.4m)程度高くすることで、 洪水の際に対岸の堤防を水が越すという 「水越の策」、土砂の堆積を防止する
「川堀り」、 分派量を固定するための島(三角洲)の最上流端への水制の設置、流水を抑制するための河岸部への水制の設置、 「御建藪・御留藪」 という水害防御用の植林等が行われたそうである。 図1に示すように、三角洲に築かれていた荘園 <五箇荘> を、 鯉城の鯉の鱗として、干拓と沖合埋立事業によって、 「箱島・平塚」 「比治島・仁保島」 「吉島」「広瀬・江波島」 「別府」 という、さらに広い5つの島と、 「京橋川」 「猿猴川」 「元安川」 「旧太田川 (本川)」 「天満川」 「福島川と山手川(太田川放水路)」 という 7本の川筋に発達させながら、海城 広島鯉城を築城していったのである。 海抜ゼロメートル地帯の五鱗の形成によって、広大な 「人工地盤」
が出現することになる。 図2に示すように、平成26(2014)年の毛利輝元忌6月2日に、地形学的歴史文化的に、 小生が <広島五鱗> と命名して話を進めると、 広島五鱗の出現は、堤防の築造も及ばず、高潮による洪水被害を拡大させる原因ともなり、 太田川の治水と共に喫緊の課題となった。 そのような状況の中で、昭和42(1967)年、山手川と福島川が太田川放水路に改修され、太田川放水路の完成によって、城内の浸水被害は大幅に軽減された。 城内治水の要、旧太田川と京橋川の分岐点にあった
「一本木鼻の水制」 の役目は、 太田川放水路の完成によって、太田川放水路と旧太田川の分岐点に移動し、城内の洪水監視塔として、 その役目を継承しているのが、国土交通省中国地方整備局太田川河川事務所大芝出張所である。 矢口第一水位観測所での水位観測と連動した大芝水門と祇園水門による人力での水制によって、 「永遠の都 広島鯉城」 内 の安全な暮らしが保たれるに至っている。 因みに、太田川の感潮区間は、河口から約9km、東区戸坂に架かる安芸大橋の上流側にある 「潮止堰」 までである。 さて、太田川 「広島」 文明史より津波防災における海城 鯉城の防御の構えである外護の精神を確認すると、 本丸、一の鱗 「箱島・平塚」 は、「水越の策」
によって周囲の鱗より堤防が高いはずである。 そして、一の鱗に隣接する対岸には、「御建藪・御留藪」
によって水害防御用の植林事業を本格実施しなくてはならない。 広島市は、津波浸水予測図を示すだけではなく、城内に浸水するという由々しき事態に対して、 攻めの津波防災に力点を置き、地域住民と共に千年都市 広島鯉城を目指す必要がある。 南海トラフを震源とする超巨大地震に備えていくために、 戦略的な地域防備としての津波浸水対策と景観都市づくりを全面的に押し出し、 攻めの津波防災Hiroshimaの叡智として一体的に発信強化する必要があるのではなかろうか。 さらに具体的に踏み込んで述べると、広島市では、市民と行政
(国・県・市) の協働で、 平成15(2003)年に 「水の都ひろしま」 構想と、この 「水の都ひろしま」 構想を実現するために、 「水の都ひろしま」 推進計画を策定している。 この計画に基づいて、 国土交通省中国地方整備局太田川河川事務所において
『水の都 リバーウォーク』 整備事業を推進しているが、 観光の目玉として育つには至っていない。 そこで、千年都市 広島鯉城の本格的な宝とするべく、 この事業を、川を主題とした 『広島鯉城 水辺の散歩道』 に改めて、 重点的に観光事業として推進整備することにより、 リバーフロントの生物多様性と景観形成、おしゃれな水辺のカフェテラス、水辺のレストラン街、憩いの場の創出等々、 広島観光の魅力が一段と高まることが期待できる。 千年都市 広島鯉城 Sanfrecce Hiroshima
Carp Castle は、 世界に通用する地球人類の叡智 Hiroshima として、永遠を約束するものであり、 ヒロシマの使命として、世界の都市総合力ランキング 1位を目指す、という誓いを宣言しなければならない。 このように、<三矢の訓> 毛利元就の孫、毛利輝元の命名による 州都 「広島 」築城の歴史は、 太田川河口三角洲の治水の歴史である。 小生独自の広島の歴史観 <三本の矢> として、 一の矢 地理的歴史軸 広島 二の矢 歴史的地理軸 ヒロシマ 三の矢 運命共同体の地球的未来軸 Hiroshima がある。 この視点により、広島の発展は、三本の矢を同じ太さに育てていくことにほかならないことが解る。 <三矢の訓> を意識的に実践していくことが、海城
「広島」 の強さとなり、 “世界のまほろば” たらしめるUni-Earth City 建設参12) の完成をもって平和都市国家樹立と成す、 との未来展望である。 7. 特色ある路面電車の街の防災戦略 広島は路面電車の街である。 既述のように太田川河口三角洲を広島五鱗に着目すると、路線網の弱点が鮮明に浮び上がってくる。 本来、海城である利点を活かして、 5つある島のうちのひとつ一つの鱗において、独立した防災まちづくり事業を展開すること、 それでいて三角洲全体が調和的護りであることが、城の強さであり、築城の精神とも云える。 城づくりそのものが防災事業であることから、 城内の暮らしに、避難の概念はそもそも存在し得ないことが特長の人工都市である。 路面電車の整備においては、この精神が的確に反映されていなければならない。 鯉城のひとつの鱗における輸送システムの充実は勿論のこと、 災害時には救援物資を運び、電停を防災ステーションとすることや、 救急車ではなく、救急路面列車として動く病院の機能を有すること、 被災者を大量に脱出させるための避難列車を走らせることなど、 多機能性展開を図ることが特色ある路面電車の街の防災戦略と云える。 それこそが Hiroshima の叡智である。 8.
発想の転換を攻めの地震防災戦略へと 未曾有の超巨大地震の発生を前に、地球人類は発想の転換を求められている。 気象庁地震情報の 「原因指標」 から 「結果指標」 への転換であり、 巨大地震に怯える姿勢から、貴重な地震波形を記録するための、超巨大地震を待ち構える姿勢への転換である。 こうして未来創造に向けた発想の転換がはじまると、避難についても発想を転換せざるを得ない。 地震が来ると、すぐに避難、避難という言葉が飛び交うが、 地震が来る前に、危険地域からの避難を完了していなくてはならないのは、未だ国民合意ではないのか。 地震発生時には、減災行動を執るべきなのである。 そして、究極的には、地震が来ても避難しなくても良い智恵社会を築いていかなくてはならない、 という発想の転換が重要である。 防災まちづくりが観光まちづくりであることの発想の転換について気付かせてくれたのは、 持続可能な土地利用戦略Lifestyles Of
Health And Sustainability、LOHASである。 智恵社会の実現とは、大いなる自然との共生社会実現のことである。 そのための <豊かな暮らし>、攻めの防災戦略が必要とされている。 広島市において、未来創造の <三の矢> は運命共同体の地球的未来軸 Hiroshima であるので、 海城 防災先進都市として、海城 ICT先進都市として、 ハード対策とソフト対策の両面を先駆的に駆使していくことが重要となる。 繰り返すが、地震波形のリアルタイム活用は、国民が主体となって減災行動を執るための、 工学的に合理的な被害低減への方策である。 『地震動を考慮した微地形による液状化ゾーニングに関する研究』参2)の拡張として、 <攻めの地震防災> を提言している。 9.
結びに代えて 〜 投資銀行の設立の必要性と未来創造意識 G空間社会の到来によって、 地震工学は地盤情報工学の発展とともに大きく躍進を遂げる入口に位置していることと、 攻めこそが最大の護りであることを確認して、 防災戦略とは、未来創造のための特色ある観光まちづくり戦略である、ことを導き出してきたつもりである。 太田川 「広島」 文明の原初と日本近代の原初を辿り、 21世紀の文明開化を契機に、世界最強の都市としての海城となるべくHiroshima の未来を探ってきた。 その早期実現のために投資銀行の設立を提言する。 NSP投資銀行研究会参13)によれば、 日本再生の鍵を握る日本版投資銀行とは <ひとことで言えば 「日本最高の株主」である>。 これに、小生は、民間資金調達 Private
Finance Initiative、PFIの本質が、経営品質管理であることを補足して、 平成11(1999)年9月のPFI法施行から、PFIが期待以上に進んで来なかった参14)原因究明として、 投資銀行の設立を提言する次第である。 さて、21世紀宇宙論的地球時代、 地球人類は、宇宙の本質が意識であることに目覚め <起源意識> に戻る必要がある。 技術者は往々にして “技術” のみを主題に議論するが、“ハサミ” だけでは物は切れない。 技術は意識と結びついてこその道具である。 未来もまた然り。 未来創造の意識は、“過ちを繰返さない”ために <我己> を持ち込んではならない参7)。 そして、未来創造意識への投資は、明るく豊かでなければならず、 <現在・過去・未来> が統一された <永遠>、 つまり <大宇宙を意味する0次元 = Zero-point energy field>参7)の、 大いなる自然との共生循環社会 Uni-Earth参12)の実現にほかならないのである。 歴史を鏡とする意識によって未来を拓き、和多志の完成に向けた、万物の霊長としての万物調和が求められている。 参考文献 参1) 前島修、間々田弘紀:液状化した土の特性に関する研究、東京電機大学学士論文、1996年3月 参2) 前島修:地震動を考慮した微地形による液状化ゾーニングに関する研究、東京電機大学修士論文、1998年3月 参3) 前島修:<水頭比較による液状化評価指標> についての考察、1997年11月 参4) 野口科子:地震記録に基づく表層地盤の非線形応答に関する研究、北海道大学博士論文、2009年3月 参5) (一社)日本地震工学会地盤情報データベースを用いた表層地質が地震動特性に及ぼす影響に関する研究委員会:「東北地方太平洋沖地震の地震動と地盤」に関する国内ワークショップ、2013年2月、pp.73-81. 参6) (一社)日本地震工学会微動利用技術研究委員会:微動の利用技術、2011年12月 参7) 前島修:I LOVE YOUから はじめよう! STSの目的 人類の智慧の完成 <波羅蜜>、 STS Network Japan News Letter 2009 vol.20 (1)、通巻No.66、2009年6月 参8) 前島修:広島からのメッセージ 運命の赤い糸 編まれ往く Hiroshima 鯉幟、2013年6月 参9) 前島修:建設コンサルタントのテクノロジー・アセスメントへのすすめ、土木学会誌 Vol.87、2002 年1月、pp.64-67 参10) 広島市:図説広島市史、1989年 参11) 国土交通省中国地方整備局太田川河川事務所:太田川水系河川整備計画 第2章 太田川水系の概要、2011年5月 参12) 前島修:“ワールド・ピース・ヒロシマ”地球再生プロジェクト、2006年9月 参13) 藤原直哉:NSP投資銀行研究会、2014年1月 参14) 内閣府民間資金等活用事業推進室(PFI推進室):PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン、2013年6月 日本地震工学会 地域の災害レジリエンスの評価指標開発と政策シミュレーション研究委員会 平成26(2014)年9月1日 月曜日 広島市長 (候補者) 前 島 お さ む 広島おさむる会 会長 詩人 測量家 “攻めの防災” 提唱者
修士(工学)(東京電機大学)(1998) twitter https://twitter.com/ousamaosamu facebook https://www.facebook.com/maeshimaosamu |